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第九十八話 避暑地のサンドラ・ディー

文:しばたけんじ
(鹿児島大学教員/哲学)

『アメリカン・グラフィティ』(ジョージ・ルーカス 1973)では、短足で近眼のチャーリー=マーティン・スミスが女の子をナンパして成功するシーンがある。私はこのシーンが大好きだった。 ナンパされるのはキャンディー・クラークで、いかにも遊びなれた感じの女子高校生を演じている。成功の秘訣はまったく他愛ない。 どう声をかけていいか分からないチャーリー=マーティン・スミスが、苦し紛れに口にした「サンドラ・ディーに似ている」という台詞が成功の秘訣だったのだが、これが面白い。 こういう台詞が以外と高得点を得られるという感じが、本当にするからである。ところで、この映画の舞台である1960年代の米国で、サンドラ・ディーという女優はそんなに人気があったのであろうか。 サンドラ・ディーは、1959年に二本の映画に出ている。『避暑地の出来事』(デルマー・デイヴィス)と『悲しみは空の彼方に』(ダグラス・サーク)である。 私がこれらの作品を見たのは『アメリカン・グラフィティ』を見た後だった。『避暑地の出来事』は、実業で成功した父親が、かつて使用人をしていた避暑地のホテルに家族を連れて休暇に出かけることが物語の始まりで、その一人娘がサンドラ・ディーだった。 サンドラ・ディーは、かつては父親の雇い主だった男の一人息子であるトロイ・ドナヒューと恋に落ちるが、二つの家族は対立している。『ロミオとジュリエット』を原型にしたようなメロドラマである。『悲しみは空の彼方に』では、サンドラ・ディーは主演のラナ・ターナーの一人娘である。 ラナ・ターナーには写真家の恋人(ジョン・ギャビン)がいるが、結婚に踏みきることができない。大学生になったサンドラ・ディーは、母親の恋人であるジョン・ギャビンに好意を抱くようになるが・・・。 無論、これもメロドラマである。しかも、『避暑地の出来事』よりも数段本格的なメロドラマである。これらの作品のサンドラ・ディーを見ると、確かに可愛らしい。 ただ、どちらの作品もお嬢様的な役で、そのためか性的な魅力は抑えて演出されている。これが私の印象である。サンドラ・ディーに比べると、『アメリカン・グラフィティ』のキャンディー・クラークはどうみてもすれた感じである。 そういう女子高校生が「サンドラ・ディーに似ている」といわれて嬉がる心理は、どこか分かる気がする。どんな女子も可愛らしい女子が好きなのだ。 実際のところ、キャンディー・クラークはどこかサンドラ・ディーに似てます。

避暑地の出来事 A Summer Place

避暑地の出来事 A Summer Place

監督・製作・脚本 デルマー・デイヴス
キャスト リチャード・イーガン、ドロシー・マクガイア、トロイ・ドナヒュー、サンドラ・ディー
作品情報 1959年/アメリカ/131分

落ちぶれた名門ハンター家をかつて雇われていた男が妻子を連れて訪れた。 男の娘とハンター家の長男はやがて真剣に愛し合うようになるが、かつて恋仲であった男と、ハンター家の妻も再び恋愛関係に陥り、憤慨した大人たちのために若い二人は強引に引き離されてしまう…。 主題歌「夏の日の恋」が、全米9週間連続1位という、映画音楽でも稀にみる大ヒットを記録した。